AIと特許について発明の該当性に関する事例です。

AIと特許-発明の該当性 「発明」に該当する例と「発明」に該当しない例 (AIの特許の書き方) 事例3-2

次の請求項1および2は「発明」に該当しないが、請求項3は「発明」に該当する例です。審査ハンドブック附属書Aの事例3-2の例です。
ポイントは、「情報の単なる提示は発明に該当しない」というものです。

Marco RoosinkによるPixabayからの画像

〔事例 3-2〕 リンゴの糖度データ及びリンゴの糖度データの予測方法

特許請求の範囲の請求項1、2および3は次の通りです。

【請求項 1】
 反射式近赤外分光分析を行う携帯型のリンゴ用糖度センサにより計 測された、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データ。

【請求項 2】
 サーバの受信部によって受信され、前記サーバの記憶部に記憶され た、請求項 1 に記載のリンゴの糖度データ。

【請求項 3】
 サーバの分析部が、収穫前の所定期間分のリンゴの糖度データ及び気 象条件データと、
 出荷時のリンゴの糖度データとの関係を、過去の実績 に基づいて分析する工程と、
 前記サーバの受信部が、請求項 1 に記載のリンゴの糖度データを所 定期間分受信する工程と、
 前記サーバの予測部が、前記分析した関係に基づいて、前記受信した 所定期間分のリンゴの糖度データ及び過去・将来の気象条件データを入 力として、将来の出荷時のリンゴの糖度データを予測して出力する工程 と、
を含む、
 リンゴの糖度データの予測方法。

発明の詳細な説明の概要は次の通りです。

【技術分野】
本発明は、リンゴの糖度データ及びリンゴの糖度データの予測方法に関する。

【背景技術】
リンゴの出荷にあたっては当該リンゴの糖度が重要な指標であり、出荷時にリンゴ の糖度を計測することが、従来から行われている。そして、リンゴは計測された糖度等 に基づいて等級分けされて出荷されるとともに、栽培者は翌年の栽培条件を必要に応 じて変更している。 一方、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データを計測できれば、出荷時のリンゴの 糖度データを予測することにより、当該リンゴの糖度を所望のものへと近づけるため の栽培支援を栽培中に行うことができる。

【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、果樹に実った収穫前のリン ゴの糖度データを計測し、出荷時のリンゴの糖度データを予測することにより、そのデ ータに基づいて当該リンゴの栽培中に糖度を所望のものへと近づけるための栽培支援 を行うことを目的とする。

【課題を解決するための手段】
本発明においては、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データを、携帯型のリンゴ用 糖度センサにより計測する。当該リンゴ用糖度センサは、リンゴに対して近赤外光を照 射し反射された光を分光分析することにより、当該リンゴの糖度を計測するものであ る。この計測原理は、従来から出荷時に行われてきたリンゴの糖度の計測と同じである が、センサ技術の発展により携帯型のリンゴ用糖度センサが開発されたため、本発明に おいては、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データを計測する。当該リンゴ用糖度セ ンサは通信機能を有しており、計測された糖度データをサーバに直接送信することが できる。または、栽培者の端末装置を介してサーバに送信することができる。 そして、このリンゴの糖度データは、サーバにおける分析及び予測において用いられ る。 サーバにおける分析は、以下の(1)~(4)の工程を経て、行われる。
(1) サーバの受信部が、特定期間にわたり、果樹に実った収穫前のリンゴの日々の糖度 データを、複数の栽培者の端末装置からネットワークを介して受信する工程。
(2) サーバの受信部が、収穫前の所定期間分の気象条件データ及び出荷時のリンゴの糖 度データを受信する工程。ここで、気象条件データとしては、日照量、気温、降水 量、湿度等から選ばれた、任意のものが用いられる。気象条件データは、リンゴが 栽培されている地点の気象条件であってもよいし、当該栽培地点とサーバの設置箇 所が気象条件の違いがあるほど遠距離に位置していなければ、サーバの設置箇所又 は設置地域における気象条件であってもよい。また、出荷時のリンゴの糖度データ は、従来同様等級分けのために計測されるものである。
(3) サーバの記憶部が、受信した所定期間分のリンゴの糖度データ及び気象条件データ と、出荷時の当該リンゴの糖度データとを、一の組み合わせとして記憶する工程。 サーバは、以下の(4)の分析において妥当な分析結果を得られるよう、実績値として の当該組み合わせについて十分なデータ量を蓄積する。
(4) サーバの分析部が、記憶部に記憶された前記データに基づいて、収穫前の所定期間 分のリンゴの糖度データ及び気象条件データと、出荷時のリンゴの糖度データとの 関係を機械学習により分析する工程。この機械学習には、ニューラルネットワーク によるディープラーニング等の任意の手法が用いられる。例えば、ニューラルネッ トワークであれば、収穫 X 日前の時点よりも以前に計測されたリンゴの糖度デー タ、及び、収穫前の気象条件データを入力層に入力し、出荷時のリンゴの糖度デー タを出力層から出力するように構成し、これら入力層に入力するデータと出力層か ら出力するデータとが紐付けられた分析用データを用いた教師あり学習によって、 ニューラルネットワークのニューロン間の重み付け係数を最適化していく。 そして、サーバにおける予測は、以下の(5)~(8)の工程を経て、行われる。
(5) サーバの受信部が、果樹に実った収穫前のリンゴの所定期間分の糖度データを、栽 培者の端末装置からネットワークを介して受信する工程。
(6) サーバの受信部が、現時点までの過去の気象条件データ及び現時点から出荷日まで の将来の予測気象条件データを受信する工程。上記(2)と同様に、気象条件データと しては、日照量、気温、降水量、湿度等から選ばれた、任意のものが用いられるが、 後述の予測を行うために、本工程では、将来の予測気象条件も受信する。
(7) サーバの記憶部が、これら受信したデータを記憶する工程。
(8) サーバの予測部が、(4)の工程で分析して得られた関係に基づいて、記憶部に記憶さ れたデータを利用し、計測された所定期間分のリンゴの糖度データ及び過去・将来 の気象条件データを入力として、将来の出荷時のリンゴの糖度データを予測する工 程。例えば、(4)で言及したニューラルネットワークであれば、収穫 X 日前の時点 よりも以前に計測されたリンゴの糖度データ、並びに、当該収穫 X 日前の時点よ りも以前の気象条件データ、及び、当該収穫 X 日前の時点よりも以後の予測気象 条件データを入力層に入力し、出荷時のリンゴの糖度データを出力層から出力する ことにより、予測が行われる。
その後、サーバは、予測された出荷時のリンゴの糖度データを、ネットワークを介し て栽培者の端末装置へ送信する。栽培者は、当該予測された出荷時のリンゴの糖度デー タに基づいて、栽培条件の変更等を検討する。

【発明の効果】
本発明によれば、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データを計測し、出荷時のリン ゴの糖度データを予測することにより、そのデータに基づいて当該リンゴの栽培中に 糖度を所望のものへと近づけるための栽培支援を行うことができる。

[結論]
 請求項1は発明に該当しない
 請求項2は発明に該当しない
 請求項3は発明に該当する

[説明]
・請求項 1 について
情報の提示(提示それ自体、提示手段や提示方法)に技術的特徴を有しないような、情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提示 を主たる目的とするもの)は第29条第1項柱書でいう「発明」(「自然法則を利用した技 術的思想の創作」)に該当しない。 請求項1では、リンゴの糖度データの提示手段や提示方法について何ら特定されてい ないところ、請求項1に係るリンゴの糖度データは、「反射式近赤外分光分析を行う携 帯型のリンゴ用糖度センサにより計測された、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度デ ータ」という情報の内容のみに特徴があるといえる。したがって、請求項1に係るリン ゴの糖度データは、情報の提示(提示それ自体、提示手段や提示方法)に技術的特徴を有 しておらず、提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提示を主 たる目的とするものである。 よって、請求項1に係るリンゴの糖度データは、情報の単なる提示であり、全体とし て自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく、「発明」に該当しない。

・請求項 2 について
請求項2では、請求項1に記載のリンゴの糖度データについて、「サーバの受信部によ って受信され、前記サーバの記憶部に記憶された」との特定がされているが、リンゴの 糖度データの提示手段や提示方法について何ら特定されていないため、依然として、情 報の内容のみに特徴があるといえる。したがって、請求項2に係るリンゴの糖度データ は、情報の提示(提示それ自体、提示手段や提示方法)に技術的特徴を有しておらず、提 示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提示を主たる目的とす るものである。 よって、請求項2に係るリンゴの糖度データは、情報の単なる提示であり、全体とし て自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく、「発明」に該当しない。

・請求項 3 について 請求項 3 に係る発明は、コンピュータソフトウエアを利用した、リンゴの糖度デー タの予測方法である。そして当該リンゴの糖度データの予測方法は、「サーバの分析部 が、収穫前の所定期間分のリンゴの糖度データ及び気象条件データと、出荷時のリンゴ の糖度データとの関係を、過去の実績に基づいて分析する工程と、サーバの受信部が、 請求項 1 に記載のリンゴの糖度データ(反射式近赤外分光分析を行う携帯型のリンゴ用 糖度センサにより計測された、果樹に実った収穫前のリンゴの糖度データ)を所定期間 分受信する工程と、サーバの予測部が、前記分析した関係に基づいて、前記受信した所 定期間分のリンゴの糖度データ及び過去・将来の気象条件データを入力として、将来の 出荷時のリンゴの糖度データを予測して出力する工程と、を含む」ものであるから、請 求項 3 に係る発明は、リンゴに関わる化学的性質、生物学的性質等の技術的性質に基 づく情報処理を具体的に行うものである。 よって、請求項 3 に係る発明は、全体として自然法則を利用した技術的思想の創作 であるから、「発明」に該当する。

[出願人の対応]
本願の発明の詳細な説明等の記載を参照する限り、リンゴの糖度データは情報の内容にのみ特徴があると解されるので、請求項1及び2に係るリンゴの糖度データについ ては拒絶理由を解消することができない。

AIと特許-発明の該当性 「発明」に該当する例と「発明」に該当しない例 (AIの特許の書き方) 事例2-13

上記の事例の請求項1および2は「発明」に該当しないデータの例でしたか、次のものは「発明」に該当するデータ構造の例です。
ポイントは、プログラムに準ずるデータ構造であれば発明に該当するという点です。データ構造であってもプログラムに準ずるものでなければ発明に該当しません。

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〔事例 2-13〕 音声対話システムの対話シナリオのデータ構造

特許請求の範囲 は次の通りです。

【請求項1】 クライアント装置とサーバからなる音声対話システムで用いられる対話シナリオのデータ構造であって、
 対話シナリオを構成する対話ユニットを識別するユニットIDと、 ユーザへの発話内容及び提示情報を含むメッセージと、 ユーザからの応答に対応する複数の応答候補と、 複数の通信モード情報と、 前記応答候補及び通信モード情報に対応付けられている複数の分岐情報であって、
 前記応答候補に応じたメッセージ及び前記通信モード情報に応じたデータサイズを有する次の対話ユニットを示す複数の分岐情報と、を含み、
 前記クライアント装置が、
 (1) 現在の対話ユニットに含まれるメッセージを出力し、
 (2) 前記メッセージに対するユーザからの応答を取得し、
 (3) 前記ユーザからの応答に基づいて前記応答候補を特定するとともに、前記クライアント装置に設定されている前記通信モード情報を特定し、
 (4) 当該特定された応答候補及び通信モード情報に基づいて1つの分岐情報を選択し、
 (5) 当該選択された分岐情報が示す次の対話ユニットをサーバから受信する 処理に用いられる、
 対話シナリオのデータ構造。

【請求項1】 「発明」に該当する。

発明の詳細な説明の概要は次の通りです。

【背景技術】
 近年、ユーザが実際に人間と会話やコミュニケーションしているかのような感覚が得られる対話型の人工知能の研究開発が進んでいる。本願は、このような対話型の人工知能を実現するための音声対話システムにおいて用いられる、対話シナリオのデータ構造に関する。 音声対話システムの一手法として、対話シナリオによって対話内容を管理する手法がある。対話シナリオとは、ユーザの応答候補のそれぞれに次のシナリオを対応付けたものであり、ユーザの応答に応じてその中から一のシナリオを選択することで対話が進んでいく。対話シナリオの例として、ユーザに対して「ラーメンは好きですか?」と問いかけた場合、ユーザからの応答が肯定的表現(好き)の場合と、否定的表現(嫌い)の場合で、それぞれ異なるシナリオが選択されて音声対話が行われる。対話シナリオの作成に当たっては、WebページやSNSへの投稿文から、実際に行われた大量の対話データを収集し、形態素解析や構文解析等の自然言語処理技術を用いて分析・学習することで生成される、人間らしい自然な対話パターンの集合を利用することができる。 音声対話システムは、スマートフォンなどで広く利用されている。この場合、音声対話サーバにおいて、対話シナリオが管理されることが多い。

 【発明が解決しようとする課題】
 しかし、従来の音声対話システムは、サーバとの通信容量について何ら考慮されていない。スマートフォンなどの通信システムでは、一月あたりの通信容量が制限されることが多く、当該通信容量はユーザの選択している料金プランによって異なる。一月あたりの通信容量が少ないユーザなど、少ない通信容量で音声対話を楽しみたいというユーザがいる一方で、一月あたりの通信容量が多いユーザなど、高品質な音声対話を楽しみたいというユーザもいる。 本願は、ユーザの希望する通信容量に合致した対話シナリオを選択可能なデータ構造を提供することを目的とする。

 【発明を実施するための形態】
  (全体構成について)
 対話シナリオは、対話の手順をツリー状に列記したものであり、対話の1つの単位をここでは対話ユニットと呼ぶ。対話シナリオの全体はサーバの記憶部に記憶され、対話ユニット単位でクライアント端末に送信される。クライアント端末は、CPU、メモリ、タッチスクリーン、マイク及びスピーカといった周知の構成を備え、当該周知の構成により、サーバとの通信機能、サーバから受信した対話ユニットを記憶する機能、対話ユニットに含まれるメッセージを音声出力や画像表示により再生する機能、メッセージに対するユーザからの応答を音声や文字入力等により受け付ける機能といった各種機能を実現する。
 (データ構造について)
 対話シナリオのデータ構造の一例を図1に示す。対話シナリオを構成する各対話ユニットは、対話ユニット識別するユニットIDと、ユーザへの発話内容及び提示情報を含むメッセージと、ユーザからの応答に対応する複数の応答候補と、複数の通信モード情報(「節約モード」か「高品質モード」のいずれか)と、前記応答候補及び通信モード情報に対応付けられている複数の分岐情報であって、前記応答候補に応じたメッセージ及び前記通信モード情報に応じたデータサイズを有する次の対話ユニットを示す複数の分岐情報とを含むデータである。前記メッセージは、音声再生されるための発話内容のみである場合(図1における、対話ユニットID2やID4)や、音声出力再生と合わせて表示される画像などの提示情報を含む場合(図1における対話ユニットID3やID5)もある。そのため、対話ユニットが含むメッセージの内容次第で、対話ユニットのデータサイズは大きく異なる。分岐情報が示す次の対話ユニットのデータサイズが小さい場合は、当該分岐情報に「節約モード」を対応付け、分岐情報が示す対話ユニットのデータサイズが大きい場合は、当該分岐情報に「高品質モード」を対応付けて管理する。これにより、一の応答候補に対する次の対話ユニットの候補として、通信容量に応じた複数の選択肢を用意することができる。
 (音声対話システムにおける情報処理について)
 まず、1つの対話ユニットがクライアント端末に配信されると、対話ユニット内のメッセージがクライアント端末にて再生される。続いて、クライアント端末において、当該メッセージに対するユーザからの応答を取得すると、その応答に基づいて応答候補を特定する。該特定は、例えば、ユーザからの応答に係る文字列と、応答候補文字列との文字列マッチングによって、ユーザからの応答に最も類似する応答候補を特定することにより実行される。続いて、クライアント端末に設定されている通信モード情報を特定した上で、特定された応答候補に対応する複数の分岐情報から、一の分岐情報が選択される。分岐情報の選択の詳細については後述する。そして、選択された分岐情報がサーバに送信されると、当該分岐情報が示す次の対話ユニットが、サーバからクライアント装置に配信される。以上の処理が繰り返されることにより、音声対話システムが実現される。
 (分岐情報の選択について)
 本音声対話システムにおいて、クライアント端末では、通信モードとして「節約モード」か「高品質モード」のいずれかが設定されている。通信モードの設定は、クライアント端末の料金プランや通信状況等に応じて自動で設定されてもよいし、ユーザが手動で設定してもよく、音声対話の途中で適宜切り替えることも可能である。 クライアント端末に「節約モード」が設定されている場合は、「節約モード」が対応付けられた分岐情報が選択され、「高品質モード」が設定されている場合は、「高品質モード」が対応付けられた分岐情報が選択される。これにより、「節約モード」が設定されている場合は、データサイズが小さい対話ユニットが順次クライアント装置に送信されるため、少ない通信容量で音声対話が実現できる。一方、「高品質モード」が設定されている場合は、データサイズが大きい対話ユニットが順次クライアント装置に送信されるため、ユーザは高品質な音声対話を楽しむことができる。
  (その他の実施形態について)
 上記の実施形態では、通信モードが「節約モード」と「高品質モード」の2種類のみの場合を説明したが、これに限られず、通信モードを3種類以上用意することで、通信容量に関して、より細やかな設定ができることとしてもよい。

[結論]
  請求項1に係る発明は、「発明」に該当する。

[説明]
・請求項1について 請求項1に係るデータ構造は、請求項に記載された、対話ユニットが、ユーザからの応答に対応する複数の応答候補にそれぞれ対応づけられている、次の対話ユニットを示す複数の分岐情報を含む等の当該データ構造のデータ要素間の関係により定まる、「前記クライアント装置が、(1)現在の対話ユニットに含まれるメッセージを出力し、(2)前記メッセージに対するユーザからの応答を取得し、(3)前記ユーザからの応答に基づいて前記応答候補を特定するとともに、前記クライアント装置に設定されている前記通信モード情報を特定し、(4)当該特定された応答候補及び通信モード情報に基づいて1つの分岐情報を選択し、(5)当該選択された分岐情報が示す次の対話ユニットをサーバから受信する」という情報処理を可能とするデータ構造であるといえる。よって、当該データ構造は、音声対話システムにおける情報処理を規定するという点でプログラムに類似する性質を有するから、プログラムに準ずるデータ構造(ソフトウエア)である。そして、請求項1の記載から、対話ユニットが含む分岐情報に従った音声対話という使用目的に応じた特有の情報の演算又は加工が、サーバとクライアント装置から成る音声対話システムによる一連の情報処理という、ソフトウエア(プログラムに準ずるデータ構造)とハードウエア資源とが協働した具体的手段又は具体的手順によって実現されていると判断できる。そのため、当該データ構造は、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を構築するものである。 したがって、プログラムに準ずるデータ構造が規定する情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されているから、請求項1に係るデータ構造は、自然法則を利用した技術的思想の創作であり、「発明」に該当する。

AIと特許-発明の該当性 「発明」に該当する例と「発明」に該当する例 (AIの特許の書き方) 事例2-14

発明に該当する学習済みモデルの例です。
ポイントは、「プログラム」という文言でなく、「学習済みモデル」という文言でも発明に該当する、という点です。

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〔事例 2-14〕 宿泊施設の評判を分析するための学習済みモデル

特許請求の範囲 は次の通りです。

【請求項 1】
  宿泊施設の評判に関するテキストデータに基づいて、宿泊施設の評判 を定量化した値を出力するよう、コンピュータを機能させるための学習 済みモデルであって、
  第 1 のニューラルネットワークと、前記第 1 のニューラルネットワー クからの出力が入力されるように結合された第 2 のニューラルネットワ ークとから構成され、
 前記第 1 のニューラルネットワークが、少なくとも 1 つの中間層のニ ューロン数が入力層のニューロン数よりも小さく且つ入力層と出力層の ニューロン数が互いに同一であり各入力層への入力値と各入力層に対応 する各出力層からの出力値とが等しくなるように重み付け係数が学習さ れた特徴抽出用ニューラルネットワークのうちの入力層から中間層まで で構成されたものであり、
 前記第 2 のニューラルネットワークの重み付け係数が、前記第 1 のニ ューラルネットワークの重み付け係数を変更することなく、学習された ものであり、
  前記第 1 のニューラルネットワークの入力層に入力された、宿泊施設 の評判に関するテキストデータから得られる特定の単語の出現頻度に対 し、前記第 1 及び第 2 のニューラルネットワークにおける前記学習済 みの重み付け係数に基づく演算を行い、
 前記第 2 のニューラルネット ワークの出力層から宿泊施設の評判を定量化した値を出力するよう、コ ンピュータを機能させるための学習済みモデル。

【請求項 1】 「発明」に該当 する。 (請求項の末尾 が「学習済みモ デル」であるが、 「プログラム」 の発明として 「発明」に該当 する。

発明の詳細な説明の概要は次の通りです。

【背景技術】
 コンピュータを所定の入力に対する出力を演算する演算部として機能させるニュー ラルネットワークは、多くの実例を学習させることによって情報処理を行うことが可 能であり、しかも複雑な情報処理を高速で行うことができるので、画像認識、音声認 識、音声合成、自動翻訳等の分野において種々の利用が試みられている。
 一般的に、ニューラルネットワークを新規な分野に利用する場合においては、ニュー ラルネットワークによる演算のために、何を特徴量として入力すればよいかが明確で ない場合が多く、特徴量を何にするかを慎重に吟味して設定する必要がある。
 旅行の口コミサイト等のウェブサイトに投稿されたホテル等の宿泊施設の評判に関す るテキストデータを分析するために、ニューラルネットワークを利用する場合であっても、入力特徴量には当該テキストデータ中に含まれる様々な単語(「いいね」や「!」等) の出現頻度等が候補として考えられるため、容易には設定できない。

【発明が解決しようとする課題】
 本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、入力特徴量を予め設定しておかず とも、宿泊施設の評判を的確に分析することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
 本発明の学習済みモデルは、宿泊施設の評判に関するテキストデータに基づいて、宿 泊施設の評判を定量化した値を出力するようコンピュータを機能させるためのものであ り、第 1 のニューラルネットワークと、第 1 のニューラルネットワークからの出力が入 力されるように結合された第 2 のニューラルネットワークと、から構成される。当該学 習済みモデルは、人工知能ソフトウエアの一部であるプログラムモジュールとしての利 用が想定される。
 本発明の学習済みモデルは、CPU 及びメモリを備えるコンピュータにて用いられる。 具体的には、コンピュータの CPU が、メモリに記憶された学習済みモデルからの指令 に従って、第 1 のニューラルネットワークの入力層に入力された入力データ(宿泊施設 の評判に関するテキストデータから、例えば形態素解析して、得られる特定の単語の出 現頻度)に対し、第 1 及び第 2 のニューラルネットワークにおける学習済みの重み付け 係数と応答関数等に基づく演算を行い、第 2 のニューラルネットワークの出力層から 結果(評判を定量化した値、例えば「★10 個」といった値)を出力するよう動作する。
 第 1 のニューラルネットワークは、特徴抽出用ニューラルネットワークのうちの入力 層から中間層までで構成されたものである。この特徴抽出用ニューラルネットワークは、 一般的に自己符号化器(オートエンコーダ)と呼ばれるもので、中間層のニューロン数が 入力層のニューロン数よりも小さく、入力層と出力層のニューロン数が互いに同一に 設定してある。また、入力層と出力層の各ニューロンの応答関数はリニア関数であり、 それ以外の各ニューロンの応答関数はシグモイド関数(1/(1+exp(-x)))である。
 当該特徴抽出用ニューラルネットワークの学習は、周知の技術であるバックプロパ ゲーション法により行われ、ニューロン間の重み付け係数が更新される。本発明の実施 形態においては、宿泊施設の評判に関するテキストデータを形態素解析して得られる 各々の単語の出現頻度を入力層に入力し、入力したデータと同じデータが出力層から出 力されるべく、入力データ全体に対する平均二乗誤差が小さくなるように学習を行う。 なお、上記のようにニューロンの応答関数として非線形関数であるシグモイド関数が 用いられているため、ニューロン間の重み付け係数は、中間層を境に対称になるわけで はない。特徴抽出用ニューラルネットワークが学習することによって、中間層におい て、各入力データの性質を表すような特徴量が取得できるようになる。中間層に現れる 特徴量は、必ずしも物理的に明確な意味を持った特徴量ではないが、入力層に入力され た情報を出力層で出力された情報に復元できる程度に圧縮されたものと考えることが でき、入力層への入力特徴量がどのようなものであっても当該中間層に現れる特徴量 は略同様のものとなるので、入力層への入力特徴量を予め適切に設定しておく必要が なくなる。
 本発明においては、この重み付け係数が学習された特徴抽出用ニューラルネットワー クのうちの入力層から中間層までの部分を、第 1 のニューラルネットワークとして、第2 のニューラルネットワークに結合している。そして、第 2 のニューラルネットワーク の重み付け係数は、前記第 1 のニューラルネットワークの重み付け係数を変更すること なく、学習により更新されたものである。当該学習も、上記と同様、周知の技術である バックプロパゲーション法により行う。 本発明の学習済みモデルは、上記のような第 1 及び第 2 のニューラルネットワーク から構成されるため、入力特徴量を予め設定しておかずとも、宿泊施設の評判を的確に 分析することができる。

[結論]
  請求項 1 に係る発明は、「発明」に該当する。

[説明]
 請求項 1 に係る学習済みモデルは、「宿泊施設の評判に関するテキストデータの入力 に対して、宿泊施設の評判を定量化した値を出力するよう、コンピュータを機能させる ための」ものであるとともに、「前記第 1 のニューラルネットワークの入力層に入力され た、宿泊施設の評判に関するテキストデータから得られる特定の単語の出現頻度に対し、 前記第 1 及び第 2 のニューラルネットワークにおける前記学習済みの重み付け係数に 基づく演算を行い、前記第 2 のニューラルネットワークの出力層から宿泊施設の評判 を定量化した値を出力するよう、コンピュータを機能させるための」ものであり、また、 発明の詳細な説明の「当該学習済みモデルは、人工知能ソフトウエアの一部であるプロ グラムモジュールとしての利用が想定される。」及び「コンピュータの CPU が、メモリ に記憶された学習済みモデルからの指令に従って、第 1 のニューラルネットワークの 入力層に入力された入力データ(宿泊施設の評判に関するテキストデータから、例えば 形態素解析して、得られる特定の単語の出現頻度)に対し、第 1 及び第 2 のニューラル ネットワークにおける学習済みの重み付け係数と応答関数等に基づく演算を行い、第 2 のニューラルネットワークの出力層から結果(評判を定量化した値、例えば「★10 個」 といった値)を出力するよう動作する。」との記載を考慮すると、当該請求項 1 の末尾が 「モデル」であっても、「プログラム」であることが明確である。
 そして、請求項 1 の記載から、宿泊施設の評判を的確に分析するという使用目的に応 じた特有の情報の演算又は加工が、コンピュータによる「前記第 1 のニューラルネット ワークの入力層に入力された、宿泊施設の評判に関するテキストデータから得られる特 定の単語の出現頻度に対し、前記第 1 及び第 2 のニューラルネットワークにおける前 記学習済みの重み付け係数に基づく演算を行い、前記第 2 のニューラルネットワーク の出力層から宿泊施設の評判を定量化した値を出力する」という、ソフトウエアとハー ドウエア資源とが協働した具体的手段又は具体的手順によって実現されていると判断 できる。そのため、請求項 1 に係る学習済みモデルは、ソフトウエアとハードウエア資 源とが協働することによって使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を構築 するものである。
 よって、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現さ れているから、請求項 1 に係る学習済みモデルは、自然法則を利用した技術的思想の 創作であり、「発明」に該当する。

(弁理士 井上 正)