AI関連技術の審査は、現行の特許審査基準等にもとづいて行なわれており、特段の問題は無いと考えられています。しかしながら、AI関連技術等と関連の少なかった出願人にとっては、AI関連技術の審査の運用が理解しにくい点があることから、審査の透明性、予見性を与えるために審査ハンドブックに記載要件についての事例および進歩性についての事例が追加されました。記載要件または進歩性についての事例であり、他の拒絶理由を満足しているか否かについての例示ではありません。
AI関連技術はAIを使った技術のことであり、AIそのもののアルゴリズムとは区別されています。
AI関連技術についての記載要件の事例については、次の①から③に分けられています。
①出願時の技術常識に鑑みて教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係等が存在することが推認できるかどうか。
→推認できれば記載要件を満たす、推認できなければ記載要件を満たさない。
②教師データに含まれる複数種類のデータの間の相関関係等が明細書に記載された説明や統計情報に裏付けられているかどうか。
→裏付けられていれば記載要件を満たす、裏付けられていなければ記載要件を満たさない。
③教師データに含まれる複数種類のデータの間の相関関係等が実際に作成した人工知能モデルの性能評価により裏付けられているかどうか。
→裏付けられていれば記載要件を満たす、裏付けられていないければ記載要件を満たさない。
AIと特許-記載要件 相関関係の推認の事例 (AIの特許の書き方)
相関関係が推認できないというAI関連発明の事例です。
AIと特許-記載要件 事例 糖度推定システム
A.糖度推定システム(事例46)
事例46の糖度推定システムは、上記①の推認および上記②の裏付けのいずれも認められずに記載要件を満たさないと判断される事例です。
(1)請求項1の記載は、次の通りです。
【請求項1】
人物の顔画像と、その人物が栽培した野菜の糖度とを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された人物の顔画像と前記野菜の糖 度とを教師データとして用い、入力を人物の顔画像とし、出力をその人物が野菜を栽培した際の野菜の糖度とする判定モデルを機械学 習により生成するモデル生成手段と、
人物の顔画像の入力を受け付ける受付手段と、
前記モデル生成手段により生成された判定モデル を用いて、
前記受付手段に入力された人物の顔画像から推定されるその人物の栽培した際の野菜の糖度を出力する処理手段と、
を備える糖度推定システム。
(2)発明の詳細な説明の概要は、次の通りです。
[発明の詳細な説明の概要]
発明の目的は、人相とその人が育てた野菜の糖度に一定の関係性があることを用いて、人物の顔画像からその人物が野菜を栽培した 際の野菜の糖度を推定するシステムを提供することにある。例えば、人相は図に示される、頭の長さ、頭の幅、鼻の幅、唇の幅によって特 徴付けられる。ここでいう野菜の糖度とは、野菜の種類ごとに種をまいてから一定の期間がたった際の糖度である。本システムを用いること により、身近な人物の中で誰が栽培すれば最も糖度の高い野菜を育てられるか、といった予測をすることが可能となる。
まず、糖度推定システムは、ユーザから人物の顔画像の入力を受け付ける。そして人物の顔画像を入力として、その人物が野菜を栽培 した際の野菜の糖度を出力とする判定モデルを用いて、前記人物が野菜を栽培した際の予想される野菜の糖度を取得する。前記判定モデ ルは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)など公知の機械学習アルゴリズムを利用して、人物の顔画像と、その人物が栽培した野菜の 糖度の関係を教師データとして学習させる教師あり機械学習により生成する。
(3)拒絶理由通知の概要は、次の通りです。
[拒絶理由の概要]
・第36条第4項第1号(実施可能要件) 発明の詳細な説明には、ある人物が野菜を栽培した際の野菜の糖度を推定する判定モデルの入力として、人物の顔画像を用いること、人 相が頭の長さ、頭の幅、鼻の幅、唇の幅によって特徴付けられること、がそれぞれ記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、人物の顔画像とその人物が野菜を栽培した際の野菜の糖度について、「人相とその人が育てた野 菜の糖度に一定の関係性がある」と述べられているにとどまり、人相を特徴付けるものの例として頭の長さ、頭の幅、鼻の幅、唇の幅が記載さ れているものの、具体的な相関関係等については記載されていない。
そして、出願時の技術常識に鑑みてもそれらの間に何らかの相関関係 等が存在することが推認できるとはいえない。また、実際に生成された判定モデルの性能評価結果も示されていない。
よって、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識を考慮しても、入力された人物の顔画像から推定されるその人物の栽培した野 菜の糖度を出力する糖度推定システムを作れるとはいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る「糖度推定システム」を作ることができるように記載されていないから、 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められない。
(4)この事例の場合、上記②の裏付けを満たすようにするために具体的な相関関係等を明細書に追加することは新規事項の追加となるため 認められていないので出願時の技術常識から上記①の推認できることを意見書で主張しなければなりません。
AIと特許-記載要件 相関関係の推認の事例 (AIの特許の書き方)
裏付けはないが相関関係の推認ができるというAI関連発明の事例です。
AIと特許-記載要件 事例 事業計画支援装置
B.事業計画支援装置(事例47)
事例47は、上記②の裏付けが無い( 相関関係等が明細書等に記載されていない)が、上記①の推認ができる( 出願時の技術常識から相関関係等が存在することが推認できる)と判断される事例です。
(1)請求項1の記載は、次の通りです。
【請求項1】
特定の商品の在庫量を記憶する手段と、
前記特定の商品のウェブ上での広告活動データ及び言及データを受け付ける手段と、
過去に販 売された類似商品に関するウェブ上での広告活動データ及び言及データと、前記類似商品の売上数とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記特定の商品の広告活動データ及び言及データから予測される今後の前記特定の商品の売上数をシミュレ ーションして出力する手段と、
前記記憶された在庫量及び前記出力された売上数に基づいて、前記特定の商品の今後の生産量を含む生産計画を策定する手段と、
前記出力された売上数と、前記策定した生産計画を出力する手段と、
を備える事業計画支援装置。
(2)発明の詳細な説明の概要は、次の通りです。
[発明の詳細な説明の概要]
本発明の目的は、特定の商品について、広告活動データとその言及データから、今後の売上数の予測値を推定し、在庫量と売上 数の予測値に基づいて今後の生産量を含む生産計画を提示する、事業計画支援装置を提供することにある。これにより、特定の商品の販 売者は、商品の生産計画の見直しを早期に行うことができる。
まず、事業計画支援装置は、特定の商品の在庫量を記憶する。続いて、商品についてのウェブ上での広告活動データ及び言及データを 入力として、商品の売上数を出力する予測モデルを用いて、当該商品の予測される売上数を取得する。ここで、前記広告活動データとして は、特定の商品についてのウェブ上での広告露出回数を用いる。広告の例としては、バナー広告、リスティング広告、メール広告等が挙げ られる。前記言及データの例としては、ウェブ上の記事やSNS、ブログ等での当該商品や広告についての評価が挙げられる。
当該商品や 広告についての評価として、好意的な評価が多いと高い値、否定的な評価が多いと低い値となる評価値を用いる。当該評価値は、ウェブ上 の記事やSNS、ブログ等のテキストに公知のコンピュータ処理を行うことで取得可能である。
前記予測モデルは、ニューラルネットワークな ど公知の機械学習アルゴリズムを利用して、過去に販売された類似商品に関する広告活動データ及び言及データと、該類似商品の実績売 上数の関係を教師データとして学習させる教師あり機械学習により生成する。 その後、記憶した在庫量と予測される売上数を比較し、前記売上数が前記在庫量を上回れば前記商品の生産量を増やす生産計画を、 前記売上数が前記在庫量を下回れば当該商品の生産量を減らす生産計画を策定する。
(3)説明は次の通りです。
[備考]
・第36条第4項第1号(実施可能要件)
発明の詳細な説明には、ウェブ上の広告活動データ及び言及データについて、ウェブ上の広告活動データとしては特定の商品についての ウェブ上での広告露出回数を用いること、言及データとしてはウェブ上の記事やSNS、ブログ等での当該商品や広告についての評価値を用い ることがそれぞれ記載されている。
発明の詳細な説明には、これらウェブ上での広告活動データ及び言及データと売上数との間の具体的な相関関係等については記載されて いないが、出願時の技術常識に鑑みてこれらの間に相関関係等が存在することが推認できる。
また、一般的な機械学習アルゴリズムを用い、相関関係等を有する入力データと出力データを教師データとして機械学習を行うことにより、 入力に対して対応する出力を推定する予測モデルを生成可能であることは、出願時において周知である。
以上を踏まえると、類似商品についてのウェブ上での広告露出回数、ウェブ上での記事、SNS、ブログ等での商品及び広告についての評価 値並びに類似商品の売上数を教師データとして汎用の機械学習アルゴリズムを用いて予測モデルを生成することができる。よって、前記予測 モデルを用い、特定の商品の売上数をシミュレーションして出力し、当該売上数に基づいて、前記特定の商品の生産計画を策定し、出力する 事業計画支援装置を作れることは、当業者にとって明らかである。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る「事業計画支援装置」を作れ、かつ、使用できるように記載されているか ら、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
(4)この事例47の場合、明細書等には具体的な相関関係は記載されていないが実施可能要件は満足すると判断されている。
AIと特許-記載要件 相関関係の推認の事例 (AIの特許の書き方)
裏付けはないが相関関係の推認ができるというAI関連発明の事例です。
AIと特許-記載要件 事例 自動運転車両
C.自動運転車両(事例48)
事例48は事例47と同様に、上記②の裏付けが無い( 相関関係等が明細書等に記載されていない)が、上記①の推認ができる( 出願時の技術常識から相関関係等が存在することが推認できる)と判断される事例です。
(1)請求項1の記載は次の通りです。
【請求項1】
運転者監視装置を備える自動運転車両であって、
前記運転者監視装置は、車両の運転席に着いた運転者を撮影可能に配置された撮影 装置から撮影画像を取得する画像取得部と、
前記運転者の運転に対する即応性の程度を推定するための機械学習を行った学習済みの 学習モデルに前記撮影画像を入力することで、前記運転者の運転に対する即応性の程度を示す即応性スコアを当該学習モデルから取 得する即応性推定部と、を備え、
取得した即応性スコアが所定の条件を満たさない場合に、自動的に運転操作を行う自動運転モードから 運転者の手動により運転操作を行う手動運転モードへの切り替えを禁止する
自動運転車両。
(2)発明の詳細な説明の概要は次の通りです。
運転者監視装置は、運転席に着いた運転者を撮影した撮影画像を入力として、即応性スコアを出力する学習モデルを用いて、即応性ス コアを取得する。学習モデルはニューラルネットワークなど公知の機械学習アルゴリズムを利用して生成する。機械学習アルゴリズムに入 力する教師データは、例えば、車両内の運転席に着いた運転者を撮影するように配置されたカメラによって、前記運転席に着いた運転者を 様々な条件で撮影し、得られる撮影画像に即応性スコアを紐付けることで作成することができる。
即応性スコアとしては、0から10までの数値パラメータを用いる。様々な行動状態の運転者を撮像した各撮影画像を人の手によって評価 し、撮影画像毎に即応性スコアを設定する。例えば、運転者が、「ハンドル把持」、「計器操作」、及び「ナビゲーション操作」等の行動状態に ある場合には、当該運転者は車両の運転操作に直ちに取り掛かれる状態にあると判断し、高い数値パラメータを設定する。一方、運転者 が、「会話」、「喫煙」、「飲食」、「通話」、及び「携帯電話操作」等の行動状態にある場合には、当該運転者は車両の運転操作に直ちには取 り掛かれない状態にあると判断し、低い数値パラメータを設定する。また、類似の行動状態であっても、その具体的状況に応じて異なる即 応性スコアを設定しても良い。
(3)説明は次の通りです。
[備考]
・第36条第4項第1号(実施可能要件)
発明の詳細な説明には、撮影画像として、車両内の運転席に着いた運転者を撮影するように配置されたカメラによって、様々な行動状態の 前記運転席に着いた運転者を撮影した複数の撮影画像を用いること、即応性スコアとして前記撮影画像を人の手により評価した数値パラメー タを用いること、がそれぞれ記載されている。
さらに、発明の詳細な説明には、運転者の撮影画像が示す行動状態とそれらに設定される数値パラメータの例が記載されており、また、出 願時の技術常識を鑑みて運転者の撮像画像が示す行動状態と当該運転者の運転に対する即応性の程度との間に相関関係等が存在することが推認できる。
また、一般的な機械学習アルゴリズムを用い、相関関係等を有する入力データと出力データを教師データとして機械学習を行うことにより、 入力に対して対応する出力を推定する学習モデルを生成可能であることは、出願時において周知である。
以上を踏まえると、運転者の撮影画像及び前記撮影画像を人の手により評価した数値パラメータを教師データとして汎用の機械学習アル ゴリズムを用いて学習モデルを生成することができる。よって、運転者の運転に対する即応性の程度を示す即応性スコアを当該学習モデルか ら取得し、前記取得した即応性スコアが所定の条件を満たさない場合に、自動的に運転操作を行う自動運転モードから運転者の手動により運 転操作を行う手動運転モードへの切り替えを禁止する自動運転車両を作れることは、当業者にとって明らかである。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る「自動運転車両」を作れ、かつ、使用できるように記載されているから、 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
(4) この事例48の場合も事例47と同様に、明細書等には具体的な相関関係は記載されていないが実施可能要件は満足すると判断されている。
AIと特許-記載要件 相関関係の推認の事例 (AIの特許の書き方)
請求項1は相関関係が推認されず、請求項2は相関関係が推認される事例です。
AIと特許-記載要件 事例 体重推定システム
D.体重推定システム(事例49)
請求項1については事例46と同様に、 上記①の推認 ( 出願時の技術常識から相関関係等が存在することが推認できない) および上記②の裏付け ( 相関関係等が明細書等に記載されていない) のいずれも認められずに記載要件を満たさないと判断される事例です。
請求項2については、上記②の裏付けが認められるとして記載要件を満たすと判断される事例です。
(1)請求項1および2の記載は次の通りです。
【請求項1】
人物の顔の形状を表現する特徴量と身長及び体重の実測値を教師データとして用い、人物の顔の形状を表現する特徴量及び身長から、 当該人物の体重を推定する推定モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、
人物の顔画像と身長の入力を受け付ける受付手 段と、
前記受付手段が受け付けた前記人物の顔画像を解析して前記人物の顔の形状を表現する特徴量を取得する特徴量取得手段と、
前記モデル生成手段により生成された推定モデルを用いて、前記特徴量取得手段が取得した前記人物の顔の形状を表現する特徴量と 前記受付手段が受け付けた身長から体重の推定値を出力する処理手段と、
を備える体重推定システム。
【請求項2】
前記顔の形状を表現する特徴量は、フェイスライン角度であることを特徴とする、
請求項1に記載の体重推定システム。
(2)発明の詳細な説明の概要は次の通りです。
[発明の詳細な説明の概要]
人相とその人の体格には、一定の関係が存在する。・・・・・、頬のラインと顎のラインが形作る角度をフェイスライン角度と定義すると、発 明者は、フェイスライン角度の余弦と、その人物のBMI(体重/(身長の二乗))との間に、統計的に有意な相関関係があることを発見した。・ ・・・。
この事実に基づくと、フェイスライン角度とBMIの計算に利用する身長及び体重の間には一定の相関関係が存在すると言えることから、 人物の顔画像を解析することで取得したフェイスライン角度と身長及び体重の実測値を教師データとして、ニューラルネットワークなど公知 の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習によって、高い精度の出力が可能な推定モデルを生成することができる。
また、上記実施の形態では人物の顔の形状を表現する特徴量としてフェイスライン角度を取り上げたが、当該フェイスライン角度以外に も、顔画像から取得される、顔の形状を表現する任意の特徴量を用いることが可能である。 (出願時の技術常識に鑑みてもフェイスライン角度等の顔の形状の特徴と、その人物の身長及び体重やそれらに基づくBMIとの間に相関関 係等が存在することは、推認できないものとする。)
(3)拒絶理由の概要は次の通りです。
[拒絶理由の概要]
・請求項1:第36条第6項第1号(サポート要件)/第36条第4項第1号(実施可能要件)
・請求項2:拒絶理由なし
・・・・、発明の詳細な説明には、当該フェイスライン角度以外にも、顔画像から取得される、顔の形状を表現する任意の特徴量を用いること が可能と記載されているのみで、フェイスライン角度以外の顔の形状を表現する特徴量と、その人物の身長及び体重やそれらに基づくBMIとの 間の具体的な相関関係等については記載されていない。そして、出願時の技術常識に鑑みてもそれらの間に何らかの相関関係等が存在する ことが推認できるとはいえない。また、フェイスライン角度以外の顔の形状を表現する特徴量を用いて実際に生成された推定モデルの性能評 価結果も示されていない。
よって、顔の形状を表現する任意の特徴量と身長とを用いて、体重の推定が可能であることを当業者が認識できるように記載されていると はいえないから、体重の推定値を出力する推定モデルへの入力が人物の顔画像における顔の形状を表現する特徴量と身長のみにより特定さ れた請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、・・・・・、フェイスライ ン角度以外の顔の形状を表現する特徴量と身長及び体重の実測値を教師データとして汎用の機械学習アルゴリズムを用いて推定モデルを生 成することにより、人物の顔の形状を表現する特徴量及び身長を入力してその人物の体重を推定する体重推定システムを作れるとはいえない。
請求項2について
発明の詳細な説明には、人物のフェイスライン角度の余弦と、その人物のBMIとの間に、統計的に有意な相関関係が存在することが示され ている。 このような発明の詳細な説明の記載に基づけば、フェイスライン角度と身長及び体重の間には一定の相関関係が存在すると認められ、フェ イスライン角度と身長及び体重の実測値を教師データとして汎用の機械学習アルゴリズムを用いて推定モデルを生成することができる。よって、 前記推定モデルを用いて、人物のフェイスライン角度及び身長を入力してその人物の体重を推定する体重推定システムを作れると言え る。・・・・
また、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、請求項2はサポート要件を満たす。
(4) フェイスライン以外の顔の特徴量については明細書には相関関係の裏付けも記載されていないし、出願時の技術常識から相関関係の存在が推認できないから請求項1についてはサポート要件を満たさないが、フェイスライン角度については明細書に相関関係の裏付けがあるので請求項2についてはサポート要件を満たすと判断されている。
AIと特許-記載要件 相関関係の推認の事例 (AIの特許の書き方)
請求項1については相関関係なし、請求項2については相関関係ありとされるAI関連発明の事例です。
AIと特許-記載要件 事例 被験物質のアレルギー発症率の予測方法
E.被験物質のアレルギー発症率の予測方法(事例50)
請求項1については事例46と同様に、 上記①の推認 ( 出願時の技術常識から相関関係等が存在することが推認できない) および上記②の裏付け ( 相関関係等が明細書等に記載されていない) のいずれも認められずに記載要件を満たさないと判断される事例です。
請求項2については、上記③の裏付け( 相関関係等が実際に作成した人工知能モデルの性能評価による裏付け)が認められるとして記載要件を満たすと判断される事例です。
(1)請求項1および2の記載は次の通りです。
【請求項1】
ヒトにおけるアレルギー発症率が既知である複数の物質を個別に培養液に添加したヒトX細胞の形状変化を示すデータ群と、前記既存物 質ごとのヒトにおける既知のアレルギー発症率スコアリングデータとを学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学 習させる工程と、
被験物質を培養液に添加したヒトX細胞において測定されたヒトX細胞の形状変化を示すデータ群を取得する工程と、
学習済みの前記人工知能モデルに対して、被験物質を培養液に添加したヒトX細胞において測定されたヒトX細胞の形状変化を示す前 記データ群を入力する工程と、
学習済みの前記人工知能モデルにヒトにおけるアレルギー発症率スコアリングデータを算出させる工程と を含む、
ヒトにおける被験物質のアレルギー発症率の予測方法。
【請求項2】
ヒトX細胞の形状変化を示すデータ群が、ヒトX細胞の楕円形度、凹凸度、及び扁平率の形状変化の組合せであり、アレルギーが接触性 皮膚炎である、
請求項1に記載の予測方法。
(2)発明の詳細な説明の概要は次の通りです。
[発明の詳細な説明の概要]
実施例において、(1)接触性皮膚炎発症率が既知の物質を別々にヒトX細胞の培養液に添加しヒトX細胞の楕円形度、凹凸度、及び扁平 率に係る添加前後の形状変化を示すデータ群を取得し、3種の前記形状変化データと、これらの物質の接触性皮膚炎発症率スコアリング データとを学習データとして汎用の人工知能モデルに入力して学習させたこと、(2)人工知能モデルの学習に用いなかった、接触性皮膚炎 発症率が既知の物質を別々にヒトX細胞の培養液に添加しヒトX細胞の楕円形度、凹凸度、及び扁平率に係る添加前後の形状変化を示す データ群を取得し、前記学習済みの人工知能モデルに入力して、人工知能モデルの予測する接触性皮膚炎発症率スコアリングデータを求 めたところ、予測スコアと実際のスコアの差が○%以下の物質が○%以上を占めたことを確認した実験結果が記載されている。
注)〇%については技術分野に依存することとなる。
(3)拒絶理由通知の概要は次の通りです。
[拒絶理由の概要]
・請求項1:第36条第6項第1号(サポート要件)/第36条第4項第1号(実施可能要件)
・請求項2:拒絶理由なし
請求項1には、ヒトX細胞の形状変化を示すデータ群、アレルギー発症率スコアリングデータを学習データとすることのみによって特定された アレルギー発症率の予測方法が記載されているが、発明の詳細な説明には、アレルギー発症率の予測ができた学習データの具体例として、ヒトX細胞の楕円形度、凹凸度、及び扁平率の3種の組合せ、接触性皮膚炎発症率スコアリングデータを使用したことが記載されているのみである。
ヒトX細胞の形状の変化を表すパラメータは楕円形度、凹凸度、扁平率以外にも多数存在するが、アレルギー発症率の予測に結びつくパラ メータがこれら3種の組合せ以外に具体的にどのようなものであるかを理解することは、出願時にアレルギー発症率と細胞の形状の変化の関 連性に関する技術常識がないため困難である。・・・・・
したがって、アレルギー発症率スコアリングデータを算出する人工知能モデルへの入力がヒトX細胞の形状変化を示すデータ群とアレル ギー発症率スコアリングデータのみにより特定された請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般 化するための根拠を見いだすことはできない。
また、・・・・・・、ヒトX細胞の楕円形度、凹凸度、及び扁平率の3種の組合せ以外のヒトX細胞の形状変化を示すデータ群とヒトにおける接触 性皮膚炎以外の既知のアレルギー発症率スコアリングデータとを学習データとして使用するアレルギー発症率の予測方法により、アレルギー 発症率を予測できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
請求項2について
発明の詳細な説明には、・・・・・。そして、人工知能モデルの学習に用いなかったデータを利用して、学習済み人工知能モデルが接触性皮膚 炎発症率について一定の精度で予測ができたことを確認したことが記載されている。
したがって、発明の詳細な説明は、・・・・・、人工知能モデルを用いたヒトにおける被験物質の接触性皮膚炎発症率の予測方法の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる・・・・・・。
また、・・・・・、発明の詳細な説明には、ヒトにおける被験物質の接触性皮膚炎の発症率を予測するという発明の課題が解決できることを当 業者が認識できるように記載されているといえる。
(4) 請求項1については明細書には相関関係の裏付けも記載されていないし、出願時の技術常識から相関関係の存在が推認できないからサポート要件を満たさないが、請求項2については人工知能モデルを作成できたことを示す実験結果によって相関関係を示していると捉え、サポート要件を満たすと判断されている。
(弁理士 井上 正)